なぜアメリカのバイクショップは、人が集まる「場所」になったのか?|STROKERS DALLASのTシャツを追って
一枚の黒いTシャツがあります。

胸に描かれているのは、
RICK FAIRLESS’
STROKERS
DALLAS
という文字。
その下には、テキサスを思わせる星と赤・白・青のモチーフ。そして、その上で交差する二丁のリボルバー。
背中へ回ると、グラフィックはさらに大きくなります。
ウエスタンブーツを履いたピンナップガール。
その後ろには、やはりテキサスを強く感じさせるモチーフ。
左右にはリボルバー。
そして大きく、
STROKERS DALLAS。
いかにもアメリカらしい一枚です。
でも、ここでひとつ気になることがあります。
これは、どうやらバイクに関係するTシャツらしい。
それなのに——
肝心のバイクが、ほとんど描かれていないのです。
では、「STROKERS DALLAS」とは、いったい何なのでしょう。
STROKERS DALLASとは?
調べていくと、一人の人物に辿り着きました。
Rick Fairless(リック・フェアレス)。
Strokers Dallasの公式サイトによれば、Rick FairlessはTexas州Irvingで生まれ育ち、9歳の頃からモーターサイクルに乗っていたといいます。
1976年にはRoach Paint Companyに入り、その会社はのちにGlidden Paint Companyとなりました。
Fairlessはペイントの仕事でキャリアを築きながらも、いつか自分のモーターサイクルショップを持つことを夢見ていました。
そして約20年間働いたペイント業界を離れ、1996年、自分の店を開きます。
それが、
Strokers Dallas。
のちにFairlessはカスタムモーターサイクルの世界で知られる存在となり、Strokersも雑誌やテレビ番組などで取り上げられる場所へと発展していきます。
ところが、この物語には少し不思議な続きがあります。
バイクショップの隣に、なぜバーを?
FairlessはStrokers Dallasを開くと、すぐに隣へバー&グリルを作る準備を始めています。
考えてみれば、少し不思議です。
バイクショップなら、
バイクを見る。
パーツを買う。
修理をお願いする。
それだけでも店として成立します。
それなのに、なぜわざわざ隣に「食べたり飲んだりする場所」を作ろうとしたのでしょう。
その答えを追っていくと、ひとつの聞き慣れない言葉が現れました。
Ice House(アイスハウス)。
Ice Houseって、氷屋さん?
「Ice House」。
名前だけを見れば、「氷の家」です。
そして、その始まりは本当に氷と関係しています。
まだ家庭用の電気冷蔵庫が普及していなかった20世紀初頭、Texasの町には、家庭のアイスボックスで食品を冷やすための大きな氷を販売する場所がありました。
それが、もともとのIce Houseです。
人々は仕事帰りなどに、家で使う氷を買うために立ち寄ります。
すると、そこで近所の人や顔見知りに会う。
少し話をする。
冷たいビールを飲む。
カードなどをしながら時間を過ごす。
そうしてIce Houseは、単に「氷を買う場所」だけではなく、
地域の人たちが気軽に集まり、ビールを飲み、話をする“たまり場”のような場所
へと変化していきました。
Houstonでは現在も、その名前や文化を受け継ぐIce Houseを見ることができます。
日本の感覚に無理に置き換えるなら、
「昔の氷屋さんから生まれた、近所の人がふらっと立ち寄れる気軽な酒場」
くらいに考えると、少しイメージしやすいかもしれません。
Houstonで出会った「Ice House」
では、なぜDallasのFairlessが、その名前を自分の店に使ったのでしょう。
Strokers Dallasの公式サイトには、そのきっかけも残されています。
FairlessがHoustonに住む兄Randyを訪ねたときのこと。
兄はFairlessを、現地で「Ice House」と呼ばれていた何軒かの店へ連れていきました。
豪華なレストランでも、高級なバーでもありません。
金属造りの簡素な建物で、冷たいビールを飲む。
気取らず、そこで人が時間を過ごす。
Fairlessは、そんな雰囲気を気に入りました。
そして、自分が作ろうとしていたバーの名前に「Ice House」を選びます。
Strokers Dallasの開業から2年後の1998年。
Strokers Ice House
がオープンしました。
「バイクを買わない日」にも来てもらう
ここからが、この場所の面白いところです。
バイクショップだけなら、人が訪れる理由は、
バイクが欲しい。
パーツが欲しい。
修理してほしい。
といった「用事」が中心になります。
でも、その隣に、
食事ができる。
ビールが飲める。
音楽がある。
仲間と話せる。
そんな場所があったらどうでしょう。
バイクを買う予定がない日にも、
「今日はStrokersへ行こうか。」
という理由が生まれます。
Strokers公式サイトでは、Fairlessが目指したのは、肩肘張らず、楽しい時間を過ごしたい人を歓迎する場所だったと説明されています。
そして、天気の良い日曜日には1,000台を超えるバイクが集まることもあるといいます。
ライブ音楽を聴く。
バイクを見る。
ビールを飲む。
誰かと話す。
ただ、その場所で時間を過ごす。
一軒のモーターサイクルショップが、
バイクを買う「店」から、バイクを好きな人が集まる「場所」へ。
Strokers DallasとStrokers Ice Houseを見ていると、そんな姿が見えてきます。
そこで、もう一度このTシャツを見る。
ここまで分かってから、最初のTシャツをもう一度見てみます。
すると、最初とは少し違って見えてきませんか。
フロントには、
テキサスを思わせる星。
赤・白・青。
二丁のリボルバー。
そして「STROKERS DALLAS」。
背中には、さらに大きなテキサスモチーフ。
ウエスタンブーツを履いたピンナップガール。
リボルバー。
そして再び、
STROKERS DALLAS。
やはり、バイクそのものは主役ではありません。
描かれているのはむしろ、
Texas。
Western。
Pin-up。
そして、Strokersという名前。
そう考えると、この一枚は単に「バイクショップを説明するグラフィック」というより、
Strokersという場所を取り巻く、Texas/バイカーカルチャーの空気をまとったデザイン
として眺めることもできそうです。
もちろん、これは現物のグラフィックと、確認できたStrokersの背景からBON JOURNALが読み取った文化的な解釈です。
このTシャツが、どのような意図でデザインされたのかまで確認できたわけではありません。
古びたプリントに残った時間。
現物を見ると、もうひとつ目を引くものがあります。
プリントの細かなクラックです。
テキサスモチーフの白い部分には細かなひび割れが入り、赤や青にも色褪せが見られます。
背中のピンナップガールにも、同じように時間の経過を感じさせる変化があります。
ブラックのボディも、新品のような真っ黒ではありません。
着用や洗濯を重ねてきた古着らしい褪色があります。
ボディはGILDAN Ultra Cotton。
サイズ表記はL / G / G。
実寸は、
肩幅 約51cm
身幅 約55cm
袖丈 約20cm
着丈 約70cm
ただし、この個体について製造年を特定できる情報は、現時点では確認できていません。
また、当時どこで、どのような形で販売・配布されたものなのか、あるいは「Strokers Dallasの公式商品」と呼べるものなのかについても、確認できる資料がないため断定しません。
分かっていることと、分からないこと。
古着を見るときには、その両方を残しておきたいと思います。
車とダイナー。そして、バイクとIce House。
BON JOURNALでは以前、一枚のTシャツから、
「なぜアメリカでは車とダイナーがこんなにも結びついて描かれるのか?」
を辿ったことがあります。
今回Strokersについて調べているうちに、その話を思い出しました。
車で走る。
ダイナーへ立ち寄る。
食べる。
コーヒーを飲む。
人と話す。
そして、また走り出す。
一方、Strokersでは、
バイクでやって来る。
バイクを見る。
ビールを飲む。
音楽を聴く。
仲間と話す。
そして、また走り出す。
もちろん、アメリカのダイナーとTexasのIce Houseは、それぞれ異なる歴史や文化を持つ場所です。
けれど、その風景を並べてみると、
「乗り物で移動する人が、いったん足を止める場所」
という共通点が見えてきます。
アメリカのモーターカルチャーを面白くしているのは、車やバイクそのものだけではないのかもしれません。
その周りに、
店があり、
食べ物があり、
音楽があり、
そして、人がいる。
だからこそ、車やバイクに関わる古いTシャツを調べていると、いつの間にか「人が集まる場所」の話へ辿り着くのでしょう。
ぼんちゃん先生と読み解く、一枚の服の向こう側。
Q.
「Strokers Dallas」って、何のお店?
ぼんちゃん先生
Strokers Dallasは、Rick Fairless(リック・フェアレス)が1996年に開いたDallasのモーターサイクルショップです。カスタムモーターサイクルなどで知られ、のちに隣接するStrokers Ice Houseとともに、バイクを楽しむ人たちが集まる場所へと発展していきました。
Q.
Rick Fairlessって、どんな人?
ぼんちゃん先生
Texas州Irvingで生まれ育ったカスタムモーターサイクルビルダーです。9歳の頃からバイクに親しみ、約20年間ペイント業界で働いたのち、1996年に自分のモーターサイクルショップ「Strokers Dallas」を開きました。
Q.
「Ice House」って、氷を売るお店のこと?
ぼんちゃん先生
もともとは本当に「氷」と関係する場所です。家庭用の電気冷蔵庫が普及する以前、Texasには家庭のアイスボックスなどで使う氷を販売する場所がありました。そこへ人々が立ち寄り、やがて冷たいビールを飲んだり、顔見知りと話したりするようになり、地域の人たちが気軽に集まる“たまり場”のような性格を持つようになりました。
Q.
なぜバイクショップの隣に「Ice House」を作ったの?
ぼんちゃん先生
FairlessはStrokers Dallasを開いた頃から、隣にバー&グリルを作ることを考えていました。公式サイトによると、Houstonに住む兄Randyを訪ねた際、何軒かのIce Houseへ連れて行ってもらい、その気取らない雰囲気を気に入ったことが名前の由来につながっています。そして1998年、「Strokers Ice House」がオープンしました。
Q.
このTシャツは、いつ作られたもの? Strokers Dallasの公式Tシャツなの?
ぼんちゃん先生
現時点では、この個体の製造年を特定できる資料は確認できていません。また、当時どこで、どのような形で販売・配布されたものなのか、「Strokers Dallasの公式商品」と呼べるものなのかについても確認できていないため、BONでは断定していません。現物から確認できるのは、Rick Fairless’ STROKERS DALLASの両面プリント、GILDAN Ultra Cottonボディ、L / G / Gのサイズ表記、Made in Nicaraguaなどです。
一枚の服の向こう側。
誰が、このTシャツを手にしたのか。
Strokersを訪れた人だったのか。
バイクに乗っていたのか。
HoustonのIce Houseを知っていたのか。
それは分かりません。
けれど、一枚の古びた黒いTシャツに残された
「STROKERS DALLAS」
という文字を追いかけてみたら、
一人のバイクビルダーに出会い、
一軒のモーターサイクルショップに辿り着き、
その隣にあったIce Houseを知り、
最後には、
「店は、商品を売るだけの場所なのだろうか。」
というところまで来てしまいました。
バイクを買わない日にも、人がやって来る。
ビールを飲む。
音楽を聴く。
誰かと話す。
そして、またバイクに乗って帰っていく。
一枚のTシャツに描かれていたのは、もしかするとバイクそのものではなく、
バイクを愛する人たちが集まった、Dallasのひとつの「場所」の空気だったのかもしれません。
一枚の服の向こうには、ときどき、こんな風景が隠れています。
この一枚について
Rick Fairless’ STROKERS DALLASの両面プリントTシャツ。
ブラックボディの褪色やプリントのクラックなど、時間を重ねた古着ならではの表情が見られます。
販売ページでは、サイズ・状態・各部の写真などを詳しく掲載しています。
→ Rick Fairless’ STROKERS DALLAS Tシャツの商品ページを見る
参考資料
この記事では、現物で確認できる情報に加え、以下の資料を参照しました。
●Strokers Dallas公式サイト「Strokers Dallas’ Story」
●Visit Houston「Houston Ice Houses: Find Your New Favorite」
※本記事では、確認できた事実と、現物のグラフィックや背景から読み解いたBON JOURNALとしての考察を分けて記載しています。この個体の製造年、当時の販売・配布経路、公式商品であるかどうかについては、現時点で確認できていないため断定していません。
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