背中に残った、予定されていた未来。REO Speedwagon 2008年ツアーTを追う。
古着探偵
背中に残った、予定されていた未来。
REO Speedwagon 2008年ツアーTを追う。
フロントには、翼を広げたREO Speedwagonのロゴ。
背中には「BIG ROCK TOUR 2008」と、北米の都市名。
最初は、2008年に行われたREO Speedwagonの
単独ツアーTシャツなのだと思っていた。
けれど、背中に残された都市を一つずつ追っていくと、
そこには別のバンドの名前が現れた。
Def Leppard。
Styx。
そして調べるほど、この一枚は
「実際に起きたこと」だけではなく、
まだ起きる前に予定されていた未来を
背中に残しているように見えてきた。

最初は、何の疑問もなかった。
ブラックのGILDAN Ultra Cotton。
胸には、REO Speedwagonの名前を象徴するウイングロゴ。
そして背面を見ると、
「REO SPEEDWAGON」の文字とともに、
大きく
BIG ROCK TOUR 2008
とプリントされている。
その間には、アメリカとカナダの都市名が
二列に並んでいる。
Greensboro。Hollywood。Greenville。Reading。
Quebec City。Ottawa。Detroit。Las Vegas……。
これだけを見れば、
「REO Speedwagonが2008年に回ったツアーのTシャツ」
と考えるのが自然だった。
背中の都市を、ひとつ調べてみた。
最初に目に入ったのは、
一番上に書かれている
GREENSBORO, NC。
North Carolina州Greensboro。
2008年のREO SpeedwagonとGreensboroについて調べていくと、
3月27日にGreensboro Coliseumで行われた
コンサートの記録へ辿り着いた。
ところが、そこで出てきた名前は
REO Speedwagonだけではなかった。
Def Leppard。
Styx。
そして、REO Speedwagon。
ここで初めて、
このTシャツを「REO Speedwagonの単独ツアーT」と考えていた
最初の見方に疑問が生まれた。
3組のバンドが、一緒にツアーを回っていた。
ロックのコンサートでは、
一組だけが出演する「ワンマンライブ」だけでなく、
複数のアーティストが同じ公演に出演することもある。
さらに、一夜だけ一緒に演奏するのではなく、
同じ組み合わせで複数の都市を回ることもある。
2008年春の場合、
中心となっていたのはイギリスのロックバンド
Def Leppard。
その北米公演に、
アメリカのベテランロックバンド
Styxと
REO Speedwagonが参加していた。
当時発表された北米ツアーは、
2008年3月27日のGreensboroから始まり、
アメリカとカナダを回る19公演。
つまり、
REO Speedwagonだけが各都市を回っていたのではなく、
3組が同じツアーの中で各地を巡っていたことになる。
ただし、だからといって今回のTシャツを
「Def Leppard/Styx/REO Speedwagonの公式合同ツアーT」
と断定することはできない。
なぜなら、このシャツにはDef LeppardやStyxの名前はなく、
デザイン上はあくまでREO Speedwagonが主役だからだ。
18都市を照らし合わせる。
そこで、Tシャツに印刷された都市を
2008年春に発表された北米ツアーの日程と
一つずつ照らし合わせてみた。
| Tシャツの表記 | 2008年春の予定 |
|---|---|
| Greensboro, NC | 3月27日 |
| Hollywood, FL | 3月29日 |
| Ft. Myers, FL | 3月30日 Estero |
| Greenville, SC | 4月1日 |
| Reading, PA | 4月3日 |
| Atlantic City, NJ | 4月4日 |
| Manchester, NH | 4月6日 |
| Uncasville, CT | 4月8日 |
| Providence, RI | 4月9日 |
| Quebec City, QC | 4月11日 |
| Ottawa, ON | 4月12日 |
| Hamilton, ON | 4月13日 |
| Grand Rapids, MI | 4月18日 |
| Detroit, MI | 4月19日 |
| Nampa, ID | 4月22日 Boise周辺 |
| Spokane, WA | 4月23日 |
| Las Vegas, NV | 4月25日 |
| Chula Vista, CA | 4月26日 San Diego郊外 |
驚くほど、並びが一致している。
Fort MyersとEstero、
NampaとBoise、
Chula VistaとSan Diegoのように
表記する都市名に多少の違いはあるものの、
ツアーの流れそのものはほぼ同じだ。
ところが、一都市だけ見当たらない。
当初発表された北米ツアーは19公演だった。
しかし、このTシャツに記されている都市は18。
比較すると、
4月16日に予定されていた
Winnipeg, Manitoba
が見当たらない。
なぜWinnipegだけがプリントされていないのか。
REO Speedwagon側の参加予定に違いがあったのか。
印刷データが作られた時点で何らかの変更があったのか。
あるいは、単なるデザイン上の省略なのか。
現時点では、そこまで確認できる資料は見つかっていない。
だから、答えを無理に作らず、
一つの「分からないこと」として残しておきたい。
そして、ツアーの予定が崩れ始める。
2008年4月9日、
Providence公演。
そこまでは、当初発表された日程に沿って
ツアーは進んでいた。
しかし、その直後。
Def Leppardのヴォーカリスト、
Joe Elliottが上気道感染症を患い、
医師から休養を求められた。
その影響で、
4月11日のQuebec City、
12日のOttawa、
13日のHamilton、
16日のWinnipegなどの公演が延期となった。
Grand Rapidsを含め、
さらに予定変更が広がっていく。
ところが、このTシャツには
そんな事情は当然書かれていない。
QUEBEC CITY。
OTTAWA。
HAMILTON。
GRAND RAPIDS。
予定どおりそこへ向かうはずだった都市が、
何事もなかったかのように背中に並んでいる。
振替公演では、出演者まで変わった。
延期された公演の多くは、
そのまま消えてしまったわけではない。
数か月後の8月に、
振替公演が設定された。
しかし、ここでもう一つ変化が起きている。
8月6日のHamilton、
8月9日のQuebec City、
8月10日のOttawa、
8月13日のWinnipeg、
8月15日のGrand Rapidsなどでは、
Def Leppardのサポートとして
Billy Idolが参加することになった。
一方、8月23日のDetroitでは
StyxとREO Speedwagonが再び出演している。
つまり、
春に考えられていた
「Def Leppard+Styx+REO Speedwagon」という旅程は、
延期によってそのままの形では残らなかった。
日付が変わり、
場所によっては出演者も変わった。
でも、Tシャツの背中だけは変わらない。
ここで改めて、このTシャツの背中を見る。
Quebec City。
Ottawa。
Hamilton。
Grand Rapids。
Detroit。
そこには、
当初予定された都市がそのまま残っている。
現実のツアーは途中で姿を変えた。
でも、プリントされた予定は変わらなかった。
そう考えると、
この背中に残されているのは
単なる「過去の記録」ではないのかもしれない。
まだ何も起きていなかった時点で、
これから起きるはずだと考えられていた未来。
そんなものまで、
古着は残すことがある。
このTシャツについて、分かっていること。
ボディはGILDAN Ultra Cotton。
表記サイズはXL。
素材は100%コットンで、
タグにはMade in Haitiと記されている。
実寸は、
肩幅約58.5cm、
身幅約60cm、
袖丈約22cm、
着丈約71.5cm。
プリントには経年による風合いも見られる。
ただし、
タグやプリントだけから
「2008年の公式ツアーTシャツ」
「当時の会場販売品」
「REO Speedwagon公式マーチャンダイズ」
と断定することはできない。
今回確認できたのは、
このTシャツに印刷された都市の並びが、
2008年春に発表されたDef Leppard、
Styx、REO Speedwagonによる北米ツアーの日程と
高い精度で対応している
というところまでだ。
古着には、「起きなかったこと」も残る。
古着を調べるとき、
私たちはつい、
「いつ作られたのか」
「どこで売られたのか」
「誰が着たのか」
といった答えを探したくなる。
けれど今回、
背中の都市を追っていて思った。
服に残るのは、
起きた出来事だけとは限らない。
これから起きるはずだったこと。
行くはずだった街。
一緒に演奏するはずだった人たち。
そんな、
まだ実現していない予定まで、
プリントという形なら残ることがある。
そして18年後、
一枚の古着の背中から
その予定をもう一度読み直すことができる。
だから、このTシャツの面白さは
「REO SpeedwagonのロックT」というだけではない。
2008年のある時点で、
誰かが思い描いていたツアーの未来が、
今も背中に残っている。
それが、この一枚から見えてきた物語だった。
ぼんちゃん先生と読み解く、一枚の服の向こう側。
REO Speedwagonの単独ツアーではなかったの?
ぼんちゃん先生
2008年春に発表された北米ツアーでは、Def Leppardを中心に、StyxとREO Speedwagonも参加して複数の都市を一緒に回っていました。
そのため、REO Speedwagonだけの単独ツアーだったとは考えにくいです。
ロックの世界では、複数の有名バンドが同じ公演に出演し、その組み合わせで各都市を回るツアーも珍しくありません。
それなら、なぜTシャツにはREO Speedwagonしか書かれていないの?
ぼんちゃん先生
このTシャツは、フロントも背面上部もREO Speedwagonが中心のデザインになっています。
そのため、REO Speedwagon側のグッズとして作られた可能性は考えられます。
ただし、今回の調査では「REO Speedwagon公式商品」「会場販売品」だったことを確認できる一次資料までは見つかっていません。
BON JOURNALでは、確認できない部分は断定せずに紹介します。
背中に書かれた都市は、全部実際に公演した場所なの?
ぼんちゃん先生
背面の都市は、2008年春に発表されたDef Leppard、Styx、REO Speedwagonによる北米ツアーの日程と高い精度で対応しています。
ただし、途中でDef Leppardのヴォーカル、Joe Elliottの体調不良による延期が発生しました。
そのため、Quebec CityやOttawaなど、一部の都市ではTシャツに残された当初予定の日には公演されていません。
延期された公演は、そのまま中止になったの?
ぼんちゃん先生
すべてがそのまま消えたわけではありません。
多くの公演は数か月後に振替日程が組まれました。
ただし、振替公演では当初の「Def Leppard+Styx+REO Speedwagon」という組み合わせがそのまま維持されなかった都市もあり、Billy Idolがサポートとして参加した公演も確認できます。
つまり、日付だけでなく出演者まで変わった場所があったのです。
どうしてWinnipegだけ、Tシャツに書かれていないの?
ぼんちゃん先生
今回の調査では、その理由までは確認できませんでした。
当初発表された北米ツアーにはWinnipeg公演が含まれていましたが、このTシャツの背面には見当たりません。
REO Speedwagon側の参加予定に違いがあったのか、印刷時の事情なのか、単なる省略なのかは現時点では不明です。
分からないものを無理に答えにせず、この一枚に残された謎として残しておきます。
このTシャツは2008年の公式ツアーTなの?
ぼんちゃん先生
現時点では、そこまでは断定できません。
GILDAN Ultra Cottonのボディ、REO Speedwagonのプリント、背面の都市名などは現物から確認できます。
また、都市の並びが2008年春のツアー予定と高い精度で対応していることも確認できました。
ただし、「公式ツアーT」「会場販売品」「当時のREO Speedwagon公式マーチャンダイズ」と確認できる資料までは見つかっていません。
今回調べた一枚
REO Speedwagon
「BIG ROCK TOUR 2008」Tシャツ
GILDAN Ultra Cotton / XL / 100% Cotton / Made in Haiti
肩幅 約58.5cm
身幅 約60cm
袖丈 約22cm
着丈 約71.5cm
調査について
本記事では、2008年当時のツアー発表、
Def Leppardのツアー記録、
当時の音楽ニュースなどを照合しています。
古着は製造・販売時の資料が残っていないことも多いため、
確認できた事実と、推測できることを分けて記載しています。
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