ぬくもりのある服には、物語がある。

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服と人の物語

ワッペンは消えた。でも、糸だけが残っていた。1993年フランス軍F2を追う。

1993年フランス軍F2ジャケット|ワッペンを外した跡と96Cタグ

古いミリタリージャケットを一枚、広げてみた。

胸にはベルクロ。
両袖には、短い緑色の糸がいくつも残っている。

何かが付いていた。
でも、それが何だったのかは、もうない。

首元に残された白いタグには、
「96 C」
「6070/9000」
そして、かすかに「1993」。

この数字は、何を意味するのだろう。

一枚の軍服に残された手がかりを、ひとつずつ追ってみることにした。

1993年製フランス軍F2フィールドジャケットの正面
1993年製とみられるフランス軍F2フィールドジャケット。胸の縦型ジップポケットと腰の大型ポケットを備えた4ポケット仕様。

まず、このジャケットは何なのか。

ディテールを追っていくと、この一着は
フランス軍のF2フィールドジャケット
と考えるのが自然だった。

胸には左右それぞれ一本ずつ、縦に配置されたジップポケット。
腰には大きなフラップ付きポケットが二つ。
肩にはエポレットが付き、フロントはボタンを隠す比翼仕立てになっている。

背面は比較的シンプルだが、裾の左右にはゴムが入り、
身体に沿わせるような作りになっている。

ハンガーに掛けた1993年製フランス軍F2フィールドジャケット

ハンガーに掛けたF2。胸や袖には、かつて何かが取り付けられていた痕跡が残っている。

1993年製フランス軍F2フィールドジャケットの背面

F2フィールドジャケットの背面。左右の裾に入るゴムも、この一着の特徴のひとつ。

白いタグに残った「1993」。

この一着を調べるうえで、大きな手がかりになったのが首元のタグだった。

大きく記されたのは、
「96 C」

その下には
「6070/9000」
と読める数字が残っている。

さらに、その上部にはかなり薄くなっているものの、
「1993」
の数字が確認できる。

同じく96C表記を持つフランス軍F2ジャケットで、
1993年製として流通している個体も確認できることから、
この一着も1993年製とみてよさそうだ

1993と96C、6070/9000表記が残るフランス軍F2ジャケットのタグ

薄く残る「1993」と、サイズを示す「96C」「6070/9000」の表記。

「96C」とは、何を表しているのか。

フランス軍衣類に見られる
96C
は、サイズを示す表記だ。

「96」は胸囲を基準としたサイズ区分。
そして「C」は、フランス語の
Court
に由来するショート丈の区分とされている。

F2では一般に、
C=ショート、
M=レギュラー、
L=ロング、
といった丈の違いが見られる。

つまりこの個体の「96C」は、
胸囲96cmクラスを基準としたショート丈
という意味になる。

では、「6070/9000」とは?

「6070/9000」は、NATO式のサイズコードとして読むことができる。

6070は、おおむね身長160〜170cm
9000は、おおむね胸囲90〜100cm

一見すると製造番号や管理番号のようにも見えるが、
実際には着用者の体格を示すための数字だ。

つまり一枚のタグに、
フランス軍独自のサイズ表記と、
NATO式のサイズ表記が並んでいることになる。

なぜ、このF2にはポケットが4つあるのか。

正面を見ると、胸に二つ。
そして腰にも二つ。

合計四つのポケットを備えている。

フランス軍F2ジャケットの4ポケット仕様とスナップボタン

胸の縦型ジップポケットに加え、腰には大型のフラップポケットを備える。

F2ジャケットには、4ポケット仕様と2ポケット仕様の両方が存在する。

軍放出品を扱う資料では、
腹部ポケットは使用頻度が低かったことから、
1994年頃より省略されていった
と説明されている。

今回の個体には「1993」の表記が残り、
さらに腰のポケットもしっかり残っている。

それを考えると、
この一着はF2の仕様が変化していく少し前の時期に作られた個体として見ることができる。

ただし、
「1993年が4ポケット仕様の最終年だった」
とまでは断定できない。

軍用品は製造時期、メーカー、納入時期、在庫状況などによって
仕様が重なることもある。
だからこそ、ここでは目の前の個体から確認できるところまでを記録しておきたい。

ワッペンは消えた。でも、糸だけが残っていた。

この一着で、いちばん気になったのはタグではなかった。

袖に残された、小さな緑色の糸だった。

フランス軍F2ジャケットの袖に残る緑色の縫い糸の痕跡

袖に点々と残された緑色の糸。何らかの徽章やパッチ類が取り外された痕跡とみられる。

一箇所ではない。

袖の複数箇所に、
規則的に短い糸が残っている。

フランス軍F2ジャケットのもう一方の袖に残る縫い糸

別の箇所にも残る縫製跡。取り外されたものの正体までは分からない。

形状から考えると、
何らかの徽章やパッチ、識別用の布類などが縫い付けられ、
後から取り外された痕跡である可能性が高い。

ただし、
何が付いていたのかまでは特定できなかった。

部隊章だったのか。
資格章だったのか。
あるいは別の識別表示だったのか。

今残っている糸だけを見て、
そこまで断定することはできない。

古着を調べていると、
分かることより、分からないことの方が多い。

でも、その「分からない」が残っていることも、
古着のおもしろさなのだと思う。

胸に残されたベルクロ。

胸には横長のベルクロと、
前立て付近には四角いベルクロが残されている。

フランス軍F2ジャケットの胸ベルクロと周囲に残る縫製跡

胸の横長ベルクロと、その周辺に残された緑色の糸。

フランス軍のF2では、
ネームや階級などの表示を取り付けるためのベルクロが用いられる個体がある。

ただし今回も、
「ここに誰の名前が付いていたのか」
「どの階級章が付いていたのか」
までは分からない。

確認できるのは、
ベルクロが残っていることと、その周辺にも使用の痕跡が残っていること
までだ。

YKKのファスナーも、一着の記録。

胸の縦型ポケットには、
YKK刻印入りのファスナーが使われている。

フランス軍F2ジャケットのYKK刻印入り胸ポケットファスナー

胸の縦型ポケットに使われているYKKファスナー。

もちろん、
YKKだから価値が高いわけでも、
YKKだからフランス軍実物だと断定できるわけでもない。

それでも、
30年以上前の一着を記録するなら、
こうした小さな部品も残しておきたい。

タグだけではなく、
ボタンやファスナー、
縫い目や糸。

一着の服を作っているのは、
そうした小さなものの積み重ねだからだ。

分かったことと、分からなかったこと。

今回、この一着を調べて分かったことがある。

フランス軍のF2フィールドジャケットであること。

タグには1993年とみられる表記が残っていること。

96Cはサイズを示し、
6070/9000も着用者の体格を示すサイズコードであること。

そして、
この個体が4ポケット仕様であること。

一方で、
分からなかったこともある。

袖や胸に残る緑色の糸が、
かつて何を縫い留めていたのか。

誰が着ていたのか。

どこで使われたのか。

そこまでは、今の資料からは分からない。

でも、それでいいのかもしれない。

古着は、すべてを説明してくれる資料ではない。

誰かが着て、使い、
何かを付け、
そして何かを外し、
手放したあとに残ったものだ。

だから、
分かったことは分かったこととして記録する。

分からなかったことも、
分からなかったまま記録する。


ワッペンは消えた。
でも、その跡はまだここにある。

斜めから見た1993年製フランス軍F2フィールドジャケット

ワッペンや徽章は失われても、30年以上前の一着には、その痕跡が残っている。

ぼんちゃん先生と読み解く、一枚の服の向こう側。

Q.
F2ジャケットって何ですか?
猫耳フードのぼんちゃん先生

ぼんちゃん先生

フランス軍で使用されたフィールドジャケットのひとつです。
胸の縦型ジップポケットや肩章、比翼仕立てのフロントなどが特徴です。

今回の個体は、胸ポケットに加えて腰にも大型ポケットを備えた4ポケット仕様です。

Q.
「96C」は何を意味していますか?
猫耳フードのぼんちゃん先生

ぼんちゃん先生

「96」は胸囲を基準としたサイズ区分、
「C」はCourtと呼ばれるショート丈の区分です。

つまり96Cは、胸囲96cmクラスを基準にした短め丈のサイズということになります。

Q.
「6070/9000」は製造番号ですか?
猫耳フードのぼんちゃん先生

ぼんちゃん先生

製造番号ではなく、NATO式のサイズコードとして読むことができます。

おおむね6070が身長160〜170cm、
9000が胸囲90〜100cmの区分を示します。

Q.
F2には4ポケットと2ポケットがあるんですか?
猫耳フードのぼんちゃん先生

ぼんちゃん先生

はい。F2には腰ポケットを備える4ポケット型と、
腰ポケットを省略した2ポケット型が確認されています。

軍放出品の資料では、1994年頃から腹部ポケットが省略されていったとされています。
今回の1993年製とみられる個体に4ポケットが残ることは、年代的にも整合します。

Q.
袖に残っている緑色の糸は何ですか?
猫耳フードのぼんちゃん先生

ぼんちゃん先生

何らかの徽章やパッチ、識別表示などを縫い付けていた跡である可能性が高いと考えられます。

ただし、残された糸だけでは、
具体的に何が付いていたのかまでは特定できません。

Q.
ワッペンや徽章が外されていると価値は下がりますか?
猫耳フードのぼんちゃん先生

ぼんちゃん先生

コレクションとして「完全な状態」を求める場合は、
付属していたものが失われていることをマイナスと考える場合もあります。

一方で古着として見ると、
取り外し跡や色落ちも、その個体が使われてきた履歴のひとつです。

大切なのは、状態を隠さず、
分かっていることと分からないことをきちんと伝えることだと思います。

ぼんちゃん先生まとめ

1993年フランス軍F2ジャケットを解説するぼんちゃん先生と助手の猫
ぼんちゃん先生と助手が、1993年製とみられるフランス軍F2ジャケットに残されたタグやベルクロ、ワッペン跡を読み解きます。

1993年とみられるフランス軍F2フィールドジャケット。

96Cというサイズ表記。
6070/9000というNATO式サイズコード。
4つのポケット。
胸のベルクロ。
そして、袖に残る緑色の糸。

名前や年代が分かっても、
この一着のすべてが分かるわけではありません。

でも、分からない部分まで含めて残しておくことが、
古着を記録することなのかもしれません。


一枚の服に残された小さな痕跡。
そこから、服の向こう側を想像してみる。

参考資料・調査メモ

本記事は、実物のディテールおよびタグ表記を確認したうえで、
フランス軍F2ジャケットに関する国内外の軍放出品資料・販売資料などを照合して構成しています。

  • HIGH GROUND / Yahoo!ショッピング
    1990年代 フランス軍 F2ミリタリージャケット
    (1993年・96C)の個体資料

    掲載ページを見る
  • みのたけMilitary
    フランス軍F2ジャケットのサイズ表記
    「C / M / L」およびNATOサイズコードに関する資料

    掲載ページを見る
  • Hooperdoo
    フランス軍衣類の「96C」「6070/9000」など、
    フランス軍・NATO式サイズ表記を確認するための参考資料

    掲載ページを見る
  • ミリタリーショップ レプマート / 楽天市場
    フランス軍F2ジャケットの仕様、
    4ポケット型から2ポケット型への変化を確認するための参考資料

    掲載ページを見る


※軍放出品は、製造時期・メーカー・納入時期・使用状況などによって
ディテールに差異が見られます。
本記事では、確認できた実物の情報を優先し、
資料だけでは特定できない内容については断定を避けています。

  • 記事を書いたライター
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BON

BON

難しいことはわかりません。

可愛いが信条の町の古着屋店主です。 古着の知識は、無いに等しいです。 お客様から、色々と教えていただいております。 可愛いが大好き。食べるのも大好き。旅行も大好き。アニメ、映画大好き。格闘技も大好き。そんなBONです。よろしくお願いします。

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