ぬくもりのある服には、物語がある。

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胸の名前は剥がされていた。背中に残った「Hollywood Cross Speed Shop」を追う。

Hollywood Cross Speed ShopのUSA製Red Kapワークシャツを追う BON JOURNAL

古着を見ていると、ときどき、

「これは、いったい誰が着ていたんだろう。」

と思わず手が止まる服があります。

今回見つけたのは、一枚の古いアメリカ製ワークシャツ。

USA製 Red Kap Hollywood Cross Speed Shop ワークシャツ 正面
一見するとオーソドックスなRed Kapの半袖ワークシャツ。胸元には、かつて何かが付けられていた痕跡が残る。

淡いグレーにも、薄いブルーにも見えるボディ。

両胸にポケットを備えた、ごくオーソドックスな半袖のワークシャツです。

ところが、後ろを向けると印象が一変します。

USA製 Red Kap Hollywood Cross Speed Shop ワークシャツ 背面

背中に残された「Hollywood Cross Speed Shop / Est. 1952」の大きなプリント。

背中には、大きくこう書かれています。

Hollywood Cross
SPEED SHOP
Est. 1952

Hollywood Cross Speed Shop Est.1952 バックプリント

赤、黒、白で描かれたバックプリント。経年によるクラックや剥がれも確認できる。

赤、黒、白で描かれたグラフィック。

プリントはところどころひび割れ、剥がれています。

でも、このシャツで気になったのは、バックプリントだけではありませんでした。

胸からワッペンが剥がされています。

シミがあります。

ほつれがあります。

そして、傷んだ場所を直してまで着た痕跡があります。

一枚の服の上に、いくつもの「残された証拠」がありました。

「Hollywood Cross Speed Shop」とは何なのか

最初に調べたのは、やはり背中の文字でした。

Hollywood Cross Speed Shop。

そして、その下には「Est. 1952」

ここでひとつ注意しておきたいことがあります。

「Est. 1952」と書かれているからといって、このシャツが1952年に作られたという意味ではありません。

「Est.」は一般的に「Established」の略で、ブランドや店、組織などの創業年を示すときに使われます。

つまりプリントだけを素直に読めば、

「Hollywood Cross Speed Shopという名称の何かが、1952年という年を掲げている」

ということになります。

では、本当に1952年創業のスピードショップが存在したのでしょうか。

調べてみました。

しかし現時点では、Hollywood Cross Speed Shopという名称と「1952」という年を直接結びつける、信頼できる一次資料までは確認できていません。

店はどこにあったのか。

誰が経営していたのか。

そもそも本当に実在した店舗だったのか。

まだ答えは出ていません。

ところが、同じ名前の「1934 Ford」が見つかった

調査を進めていると、一つ気になるものが見つかりました。

アメリカのRoadside Designというデザイン会社の公式サイトです。

同社のポートフォリオには、

“The ‘Hollywood Cross Speed Shop’ 1934 Ford”

と題された車両が掲載されています。


Roadside Design 公式サイト

シャツの背中にあるものと、まったく同じ「Hollywood Cross Speed Shop」という名称です。

これは偶然なのか。

それとも、このシャツと1934 Fordの間に何らかのつながりがあるのか。

現段階では分かりません。

重要なのは、ここで想像を事実に変えてしまわないことです。

Roadside DesignがHollywood Cross Speed Shopそのものだったとは確認できていません。

このシャツを作った会社だとも確認できていません。

分かっているのは、ただひとつ。

同社の公式サイトに、まったく同じ名称を持つ1934 Fordが掲載されている。

今のところ、そこまでです。

胸には「なくなったもの」が二つ残っている

次に正面を見てみます。

左右の胸ポケットの上。

ここには、それぞれ明らかな痕跡があります。

Red Kapワークシャツ 胸の楕円形ワッペン跡

片側には、楕円形のワッペンやネーム類があったと思われる痕跡が残る。

片側には、黄色く変色した楕円形の跡。

Red Kapワークシャツ 胸の四角いワッペン跡

反対側には、四角い縫い跡のような輪郭。元のワッペン自体は残っていない。

反対側には、四角い縫い跡のような輪郭。

もともと何らかのワッペンやネーム類が取り付けられていた可能性があります。

ただし、元のワッペンそのものは残っていません。

名前だったのか。

会社名だったのか。

役職や所属を示すものだったのか。

そこまでは分かりません。

でも古着を調べていると、ときどき「残っているもの」以上に、「なくなったもの」が気になることがあります。

誰かが、何かを付けた。

そして、後になってそれを外した。

その結果だけが、今も生地に残っています。

首元に残ったRed Kapのオレンジタグ

Red Kap S364 M MADE IN USA オレンジタグ

首元に残るRed Kapのオレンジタグ。「S364」「M」「MADE IN U.S.A.」などの表記が確認できる。

首元には、オレンジ色のRed Kapタグが残っています。

確認できる主な表記は、


S364
M
65% POLYESTER / 35% COTTON
MADE IN U.S.A.

です。

つまり、このシャツのボディはアメリカ製のRed Kapワークシャツです。

Red Kapは、長く業務用ワークウェアを展開してきたアメリカのワークウェアブランドです。

一方で、このS364という表記から製造年まで特定できる一次資料は、現時点では確認できていません。

そのため、年代については無理に断定しません。

「GRIPPER」と「SCOVILL」

襟元には、もう一つ小さな手掛かりがあります。

Red Kapワークシャツ GRIPPER刻印 スナップボタン

襟元の金属ホックには「GRIPPER」の刻印が残る。

Red Kapワークシャツ SCOVILL刻印 スナップボタン

ホックの反対側には「SCOVILL」の刻印が確認できる。

金属製ホックを拡大すると、

GRIPPER

そして反対側には、

SCOVILL

の文字が確認できます。

Scovillの公式資料によると、Gripperスナップは1930年に開発され、その後長く衣料用の実用品として使われてきました。

そのため、このホックだけで製造年代を断定することはできません。


Scovill公式 History

裏側を見ると、この服が「使われていた」ことが見えてくる

表だけでは分からない部分も見てみました。

袖や脇下には、着用による変化が見られます。

さらに、全体には大小のシミや汚れが残っています。

Red Kapワークシャツ 胸ポケット周辺のシミと使用痕

胸ポケット周辺に残るシミや汚れ。きれいではないからこそ、実際に使われてきた時間が見えてくる。

新品の服ならマイナスになるものばかりです。

古着の商品説明でも普通なら、

「シミあり」
「汚れあり」
「プリント割れあり」

と書けば終わります。

でも、この一着では少し意味が違って見えます。

傷んだら、捨てるのではなく直していた

特に気になったのが、背中側です。

背中上部には小さなほつれがあります。

そして別の場所には、すでに修復された傷があります。

Red Kapワークシャツ 背中側の補修跡

背中側に残る小さな補修跡。傷んだあとも、このシャツが直されていたことが分かる。

表側から見ると、ごく小さな補修です。

しかし裏返してみると、もう少し事情が分かります。

Red Kapワークシャツ 補修箇所の裏側 当て布

裏側を見ると、別布を当てて補強されている。今回の一着で特に残しておきたい「着られた痕跡」のひとつ。

裏側から別布を当てて、傷んだ場所を補強しています。

ここで、この服の見え方が少し変わりました。

傷んだから捨てたのではない。

直して、もう一度着ている。

少なくとも修復された時点で、このシャツはまだ「着るもの」として扱われていたのでしょう。

誰が直したのか。

本人なのか。

勤務先のユニフォーム管理だったのか。

クリーニングやリペアの業者だったのか。

それは分かりません。

でも、補修されたという事実は、生地そのものに残っています。

裾の内側に残された赤い番号

もう一つ、見逃せない痕跡があります。

Red Kapワークシャツ 裾内側に残る赤い番号

裾の内側には、用途不明の赤い数字のようなマーキングが残されている。

裾を裏返すと、生地の内側に赤い数字のようなマーキングがあります。

管理番号なのか。

クリーニングやレンタルユニフォームの識別に使われたものなのか。

製造工程に関係するものなのか。

現時点では特定できません。

ここも、想像だけで答えを作らないことにします。

「裾の内側に、赤い番号が残されている。」

今確実に言えるのは、それだけです。

バックプリントも、時間をそのまま残している

Hollywood Cross Speed Shopのプリントを近くで見ると、白、黒、赤のインクには細かなクラックと剥離があります。

きれいな状態ではありません。

でも、この擦れ方を含めて、この一着の現在の姿です。

胸のワッペンはなくなった。

背中のプリントは残った。

そしてその下には、今も「Est. 1952」の文字があります。

このシャツは何年代なのか

ここも、あえて結論を急ぎません。

USA製Red Kapのオレンジタグ。

SCOVILL / GRIPPERのホック。

生地や縫製。

複数の比較資料から、ある程度古いRed Kapのワークシャツであることは分かります。

一方で、現時点では「S364」の製造年代を特定できるRed Kapの当時のカタログなど、決定的な一次資料を確認できていません。

そのためBON JOURNALでは、

「1980年代製」などと年代を断定することはしません。

新しい資料が確認できれば、ここも追記します。

きれいだから残したい服ではない

このシャツを最初に見たとき、一番目立ったのは背中のプリントでした。

でも、写真を撮り、裏返し、細部を調べていくうちに、気になる場所が変わっていきました。

剥がされたワッペン。

タグ。

ホック。

シミ。

ほつれ。

修復。

裾の数字。

一つひとつは、小さな痕跡です。

でも全部が同じ一着の上に残っている。

そこには、このシャツが誰かの生活の中で「服」ではなく、実際に使う道具だった時間があったように感じます。

ただし、それが本当にHollywood Cross Speed Shopの従業員用ユニフォームだったかどうかは分かっていません。

そこを決めつけてしまえば、このシャツの本当の面白さを逆に失ってしまいます。

この話には、まだ続きがあります。

今回の調査で、ひとつ大きな手掛かりが見つかりました。

Roadside Designの公式サイトに掲載されている、

“The ‘Hollywood Cross Speed Shop’ 1934 Ford”

この車と、手元にある一枚のRed Kapワークシャツ。

二つを結ぶものが本当に存在するのか。

そして、背中に書かれた「1952」とは何を意味するのか。

現在、Roadside Designへこのシャツの写真を添えて問い合わせています。

もし回答をいただけた場合には、この記事に「追記」として記録します。

古着には、ときどき調べてもすぐには答えが出ない一着があります。

でも、分からないからこそ、追いかけてみたくなる。

このシャツの物語は、まだ途中です。

ぼんちゃん先生がHollywood Cross Speed ShopのRed Kapワークシャツを解説するまとめ画像

ワッペン跡、補修、SCOVILL/GRIPPERのホック、そして背中の「Hollywood Cross Speed Shop」。ぼんちゃん先生が、この一着に残された手掛かりをまとめます。

商品情報

Red Kap Hollywood Cross Speed Shop ワークシャツ 実寸

表記サイズM。肩幅約44cm、身幅約56cm、袖丈約22.5cm、着丈約74.5cm。
ブランド Red Kap
表記 S364 / M
生産国 MADE IN U.S.A.
素材 65% Polyester / 35% Cotton
肩幅 約44cm
身幅 約56cm
袖丈 約22.5cm
着丈 約74.5cm
主な状態 ワッペン跡、シミ・汚れ、ほつれ、補修、バックプリントのクラック・剥離など


※実寸は平置きで採寸しています。多少の誤差はご了承ください。
※年代やHollywood Cross Speed Shopの詳細について、確認できていない事項は断定せず記載しています。

Q.
「Est. 1952」なら、このシャツは1952年製なの?
猫耳フードのぼんちゃん先生

ぼんちゃん先生

違うよ。「Est.」は一般的に「Established」の略で、創業年などを表す言葉なんだ。

だから背中の文字は「Hollywood Cross Speed Shopが1952年という年を掲げている」という意味に読むのが自然。でも、本当に1952年創業のお店だったのかは、まだ確認できていないんだよ。

Q.
Hollywood Cross Speed Shopって、本当にあったお店なの?
猫耳フードのぼんちゃん先生

ぼんちゃん先生

今のところ「1952年創業の実在店舗だった」と断定できる資料までは見つかっていないよ。

ただし、Roadside Designの公式サイトには「The “Hollywood Cross Speed Shop” 1934 Ford」という車が実際に掲載されているんだ。

このシャツとその車に関係があるかどうかは、これから調べていくところだよ。

Q.
胸の黄色い跡と四角い跡は何?
猫耳フードのぼんちゃん先生

ぼんちゃん先生

以前ここに何らかのワッペンやネーム類が付いていた可能性が高そうだね。

でも元のワッペンが残っていないから、名前だったのか会社名だったのかまでは分からない。古着では、こういう「なくなったものの跡」も大切な手掛かりになるんだよ。

Q.
SCOVILLとGRIPPERのホックなら、年代が分かるの?
猫耳フードのぼんちゃん先生

ぼんちゃん先生

それだけでは年代を決められないよ。

Scovillの公式資料では、Gripperスナップは1930年に開発されたことが確認できる。でも、その後も長く使われている製品だから、「GRIPPERだから○年代」と決めることはできないんだ。

Q.
シミや補修があるのに、どうして記事にするの?
猫耳フードのぼんちゃん先生

ぼんちゃん先生

むしろ、この一着ではそこが大切なんだ。

ワッペンを外した跡、汚れ、ほつれ、そして直して着続けた跡。それらは新品にはない、この服が使われてきた記録だからね。

「傷がある古着」ではなく、「傷まで含めて履歴が残った古着」と見ると、このシャツはずっと面白くなるよ。

参考資料

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
BON

BON

難しいことはわかりません。

可愛いが信条の町の古着屋店主です。 古着の知識は、無いに等しいです。 お客様から、色々と教えていただいております。 可愛いが大好き。食べるのも大好き。旅行も大好き。アニメ、映画大好き。格闘技も大好き。そんなBONです。よろしくお願いします。

  1. 胸の名前は剥がされていた。背中に残った「Hollywood Cross Speed Shop」を追う。

  2. リバースウィーブは、スウェットだけじゃなかった。Champion「REVERSE WEAVE T-SHIRT」をひっくり返してみる。

  3. ワッペンは消えた。でも、糸だけが残っていた。1993年フランス軍F2を追う。

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