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服と人の物語

90年代アメリカは、自然をTシャツに封じ込めた。|1998 HABITAT(ハビタット)Vermont ムースTシャツ

1998 HABITAT(ハビタット)Vermont ムースTシャツ|90年代アメリカのネイチャーT

1998 HABITAT / VERMONT MOOSE / MADE IN USA

森とムースを着ていた時代。1998年、HABITATがTシャツに残したVermont。

HABITAT。
日本では決して広く知られた名前ではない。
けれど、90年代の彼らのTシャツには、驚くほど豊かなアメリカの自然が残されている。

1998年 HABITAT Vermont ムース アートTシャツ フロント
水辺に立つ一頭のムース。その向こうには森と山、そして空を飛ぶ鳥。1998年、HABITATの一枚。

水色のTシャツいっぱいに、森が広がっている。

中央に立っているのは、大きな角を持つムース。

足元には川が流れ、岩が転がり、岸辺には草が茂る。 その向こうには針葉樹の森。 さらに奥にも二頭のムースがいて、空には一羽の鳥が飛んでいる。

そして袖には、小さくひとつの地名が記されている。

Vermont.

アメリカ北東部、バーモント州。

これは単に「ムースが描かれた古着」なのだろうか。

調べていくと、この一枚には、 1990年代のアメリカで広がったネイチャーグラフィックの文化、 Vermontとムースの歴史、 そして急速に姿を変えつつあったMade in USAの時代が重なっていた。

HABITAT Vermont ムースTシャツ フロント全体
HABITAT Vermont ムースTシャツ バック全体

HABITATという、少し不思議なブランド。

このTシャツのブランドは、HABITAT(ハビタット)。

タグには熊のシルエットとともに「HABITAT」の文字が入り、 PRE-SHRUNK 100% COTTONと記されている。

1990年代 HABITAT ブランドタグ 熊ロゴ
熊のシルエットが入るHABITATタグ。表記サイズはXL。

ところが、HABITATについて調べようとすると、 NikeやPatagoniaのようなブランドとは少し違うことに気づく。

創業者は誰だったのか。 いつ始まった会社だったのか。 なぜ野生動物をこれほど多く描いたのか。

現在確認できる資料だけでは、その詳しい企業史を確定することが難しい。

だから、分からないところを想像で埋めることはしない。

その代わり、残されている服を見てみる。

すると、別のHABITATが姿を現す。

会社の記録より、服の方が残っている。

現在の日本の古着市場には、 1990年代のHABITATのTシャツが複数残っている。

馬、オオカミ、熊、ネコ科の動物、イルカなど。

モチーフは違っても、そこには共通する特徴がある。

動物を小さなワンポイントとして置くのではなく、 自然の風景と一緒に、Tシャツの広い面積を使って描くこと。

日本の古着店でもHABITATは、 「90年代」「USA製」「アニマルプリント」といった言葉とともに販売され、 高精細な動物グラフィックを特徴とするブランドとして紹介されている。

つまりHABITATは、日本で誰もが知っているヴィンテージブランドではない。

けれど、90年代ヴィンテージT、 とりわけアニマルTやネイチャーTを見ている人たちの間では、 確かにその名前が残っている。

HABITAT。日本では決して広く知られた名前ではない。
けれど、90年代の彼らのTシャツには、驚くほど豊かなアメリカの自然が残されている。

もしかするとHABITATは、 ブランド名よりも「絵」によって記憶されてきたブランドなのかもしれない。

少なくとも、現在残された服たちはそう見せてくれる。

HABITAT 1998 Vermont ムース ネイチャーグラフィック
ムースだけではなく、川、岩、草、針葉樹、遠景の山、空を飛ぶ鳥までひとつの景色として描かれている。

90年代アメリカには、「自然を着る」Tシャツがあった。

1990年代のアメリカンTシャツを見ていると、 ある特徴的なグラフィック群に出会う。

オオカミ。 熊。 鹿。 エルク。 鷲。 イルカ。 シャチ。 魚。

動物たちを森や山、湖、海と一緒に、 時には写真のような細密さで描いたTシャツである。

現在のヴィンテージ市場では、 こうした服はAnimal Tee、Wildlife Tee、Nature Teeなどの言葉で分類されている。

ロックバンドの名前もない。 スポーツチームのロゴもない。 企業広告でもない。

主役は、自然そのものだった。

HABITATの現存する作品群も、 そうした1990年代のアメリカン・ネイチャーグラフィック文化の中で見ると、 その存在が少し分かりやすくなる。

ただし、HABITAT自身が 「なぜ動物や自然を主題にしたのか」を説明した一次資料は、 今回の調査では確認できなかった。

だから、環境保護のためだった、 アウトドアブランドだった、と断定することはできない。

確実に残っているのは、 彼らが何度も動物と自然を描いたという「服そのもの」である。

HABITAT ムースTシャツ 1998年プリント 接写
近づいて見ると分かる、毛並みや陰影まで描き込まれたグラフィック。

では、なぜ「Vermont」にムースなのか。

右袖には「Vermont」と記されている。

HABITAT 1998 Tシャツ 袖 Vermont プリント
袖に置かれた「Vermont」の文字。この土地とムースには実際の歴史がある。

Vermontとムースの組み合わせは、 単なるイメージだけで作られたものではない。

バーモント州の資料によると、 ムースは森林伐採と保護制度の欠如などによって、 19世紀初頭までに州内から一度姿を消したとされる。

その後、森林が再生し、 ビーバーによる湿地環境が戻り、 長期間にわたる保護が続いたことで、 1970年代には隣接するニューハンプシャー州方面から再び入ってきた。

そして1980年代から90年代にかけて、 ムースの数と分布は急速に拡大していった。

つまり1990年代のVermontでは、 ムースは「昔から変わらずそこにいた動物」というだけではなかった。

一度姿を消し、 森とともに戻ってきた野生動物だったのである。

そして、このTシャツが作られた「1998年」。

プリントの左下をよく見ると、 小さな文字が入っている。

HABITAT XCVIII 1998 コピーライト
「© HABITAT XCVIII」。XCVIIIはローマ数字で98を意味する。

© HABITAT XCVIII.

XCVIIIはローマ数字で98。

したがって、この表示は1998年のHABITATの図案であることを示すものと考えられる。

そして偶然にも、1998年はVermontのムース史においても興味深い時期だった。

州の野生動物資料によれば、 Vermontでは増加したムースを管理するため、 1993年に約100年ぶりとなる近代的なムース狩猟が始まった。

1998年には165件の許可が発行され、 97頭が捕獲されたという記録が残っている。

さらに、州のムース管理計画も1998年に更新された。

つまりこのTシャツが作られた頃、 ムースはVermontの森に実際に存在し、 増え、 人間との関係を改めて考えなければならないほどの存在になっていた。

もちろん、HABITATがその管理計画を意識して この図案を制作したという証拠はない。

そこを結びつけることはできない。

けれど、 1998年のVermontを象徴する野生動物としてムースが描かれていることには、現実の風景という背景があった。

HABITATという言葉。

英語の「habitat」は、 動植物が暮らす「生息地」「生息環境」を意味する。

川。 湿地。 森。 岩場。 山。

そして、そこに暮らすムース。

このTシャツに描かれているものを見ていると、 不思議なくらい「HABITAT」という名前と重なって見える。

ただし、ブランドがその意味を理念として掲げていたことを示す 一次資料は確認できていない。

だから、 「HABITATというブランドは生息環境を表現するために作られた」 とは書けない。

言えるのは、ひとつだけ。

結果として、この一枚は“HABITAT”という名前に、とてもよく似合っている。

タグに残された、Montrose, Colorado。

HABITAT Made in USA Montrose Colorado RN89366 タグ
裏面タグには「MADE IN U.S.A.」「RN 89366」「MONTROSE COLORADO」の表記。

タグの裏側には、もうひとつ重要な手掛かりが残されている。

RN 89366
MONTROSE COLORADO

RNとはRegistered Identification Numberの略で、 アメリカ連邦取引委員会(FTC)が繊維製品などを扱う事業者を識別するために運用している登録番号制度である。

したがって、このMontrose, Coloradoという表記は、 単なる観光地名ではなく、 この衣料事業に関係した所在地を示す重要な痕跡と考えられる。

ただし今回の調査では、 RN 89366の1990年代当時の登録法人情報まで、 信頼できる一次資料で確定することはできなかった。

そのため、 「HABITATはMontroseで創業した」 「Montroseに本社があった」 とまでは断定しない。

分かっているのは、 1998年のこの服のタグに、確かにMontrose, Coloradoという土地の名前が残されているということである。

もうひとつの1998年。「MADE IN U.S.A.」

そしてタグには、はっきりとこう書かれている。

MADE IN U.S.A.

現在のヴィンテージ市場では、 USA製というだけで価値の言葉として語られることも多い。

けれど、この一枚については、 もう少し時代の側から見てみたい。

米国労働統計局(BLS)の統計によると、 アメリカのアパレル製造業の雇用者数は、 1990年の約90万3千人から、 1998年には約62万1千人まで減少していた。

そして2000年には約48万4千人になる。

1990年代は、 アメリカ国内で衣料品を作る産業そのものが 急速に縮小していた時代だった。

だから、このタグにある「MADE IN U.S.A.」は、 単なる原産国表示だけではない。

アメリカで作られたTシャツが、まだ当たり前のように存在しながら、 その風景が急速に変わっていた時代の痕跡でもある。

HABITAT 1998 USA製 Tシャツ 袖縫製
HABITAT 1998 Tシャツ 首回り コンディション

今回の一枚。

今回FURUGI BONにやってきた個体は、 淡いブルーをベースにしたタイダイ調のボディ。

フロントとバックの両面に、 Vermontのムースと水辺の景色が大きく描かれている。

表記サイズはXL。 素材はPRE-SHRUNK 100% COTTON。 Made in USA。

実寸は、 肩幅約58cm、 身幅約59cm、 袖丈約23cm、 着丈約71cm。

HABITAT Vermont Moose Tシャツ XL 実寸
表記XL。肩幅約58cm、身幅約59cm、袖丈約23cm、着丈約71cm。

そして何より面白いのは、 ブランドロゴが主役ではないことだと思う。

胸いっぱいにあるのは、 企業名でも、有名人でもない。

森と、水と、ムースである。

服の中に残った、アメリカ。

HABITATという会社について、 私たちが今知ることのできる情報は多くない。

創業者も、 詳しいブランド史も、 なぜ彼らがこれほど動物を描いたのかも、 まだ分からない部分がある。

でも、服は残った。

オオカミを描いた服。 馬を描いた服。 海の生き物を描いた服。 そして、Vermontのムースを描いた服。

会社の物語が薄れていっても、 一枚の綿の上に描かれた風景は残る。

1998年。

Vermontでは、 一度姿を消したムースが森へ戻り、 その数を大きく増やしていた。

同じ頃、 アメリカでは国内の衣料生産が急速に縮小していた。

その時代に作られた、 一枚のMade in USA。

そして28年後。

その服は海を越え、 いま滋賀の土山にある。

古着を見ていると、 ときどきブランド名よりも大きなものが見えてくる。

この一枚に残っていたのは、 HABITATという名前だけではなかった。

90年代のアメリカが見ていた、ひとつの自然の風景だった。

1998 HABITAT Vermont Moose Tシャツ バック

この一枚を、手に取る。

1998 HABITAT Vermont ムースTシャツ

90年代アメリカの自然と、1998年という時代を残した一枚。
実物のコンディション、サイズ、販売情報は
FURUGI BONの商品ページでご覧いただけます。

この一枚を見る

ぼんちゃん先生が解説する1998 HABITAT Vermont ムースTシャツのまとめ
ぼんちゃん先生と振り返る、1998 HABITAT Vermont ムースTシャツ。HABITAT、Vermontとムース、© HABITAT XCVIII、Made in USAという一枚の手掛かりをまとめました。

ぼんちゃん先生と読み解く、一枚の服の向こう側。

Q.
HABITAT(ハビタット)って、有名なブランドなの?
猫耳フードのぼんちゃん先生
ぼんちゃん先生

日本で誰もが知っているような、有名なヴィンテージブランドというわけではないんだ。
でも、90年代のヴィンテージTシャツ、とくにアニマルTやネイチャーTを見ていると、HABITATの名前に出会うことがあるよ。

日本の古着市場でも、「90年代」「USA製」「アニマルプリント」といった特徴とともに扱われているんだ。

Q.
どうしてVermont(バーモント州)にムースなの?
猫耳フードのぼんちゃん先生
ぼんちゃん先生

ムースは、実際にVermontに暮らしている野生動物なんだ。
しかも、一度Vermontから姿を消したあと、森林の回復などを背景に戻ってきたという歴史を持っているよ。

1980年代から90年代には数と分布が大きく広がっていった。
だから「Vermontとムース」という組み合わせは、単なるイメージではなく、その土地の自然と結びついているんだね。

Q.
「© HABITAT XCVIII」って、どういう意味?
猫耳フードのぼんちゃん先生
ぼんちゃん先生

「XCVIII」はローマ数字で「98」を意味するよ。
だから「© HABITAT XCVIII」は、1998年のHABITATの図案であることを示すものと考えられるんだ。

小さなコピーライト表記だけど、この一枚が生まれた年代を読み解く大切な手掛かりなんだよ。

Q.
90年代のアメリカでは、こういう動物Tシャツが多かったの?
猫耳フードのぼんちゃん先生
ぼんちゃん先生

うん。現在残っている90年代のアメリカンTシャツには、オオカミ、熊、鹿、鷲、イルカなど、野生動物と自然を大きく描いたものがたくさんあるよ。

ロックTでも、スポーツTでも、企業ロゴTでもない。
森や山、湖、そこに暮らす動物たちを主役にした、「自然そのものを着る」ようなTシャツ文化があったことが見えてくるんだ。

Q.
「Made in USA」も、このTシャツを見るポイントなの?
猫耳フードのぼんちゃん先生
ぼんちゃん先生

そうなんだ。
このTシャツが作られた1990年代は、アメリカ国内の衣料品生産が急速に縮小していった時代でもあるよ。

だから、この一枚の「Made in USA」は、単に「USA製だから珍しい」というだけじゃない。
アメリカ国内でTシャツを作っていた時代の風景が、タグの中にも残っていると考えると面白いよね。

Q.
ぼんちゃん先生、この一枚のいちばん面白いところは?
猫耳フードのぼんちゃん先生
ぼんちゃん先生

ぼくは、「会社の記録より、服の方が残っている」ところだと思う。

HABITATについては、創業者や詳しいブランド史など、まだ分からないことがある。
でも残されたTシャツを見ていくと、彼らが動物や自然を何度も大きく描いていたことは分かるんだ。

そして、この1998年の一枚には、Vermontの森、水辺、ムース、Made in USAという時代まで残っている。

古着って、ときどき一枚の服そのものが、その時代を知るための資料になるんだよ。

参考資料

  • Vermont Fish & Wildlife Department, Wildlife Action Plan / Moose Species Conservation Report.
  • Vermont Fish & Wildlife Department, Vermont Regular Moose Season Results 1993–2016.
  • Vermont Legislature, Fish and Wildlife Board Regulations / Moose Management.
  • U.S. Bureau of Labor Statistics, Fashion: Spotlight on Statistics — Employment in Apparel Manufacturing.
  • Federal Trade Commission, Registered Identification Number (RN) Database.
  • 日本国内の複数のヴィンテージ・古着販売店における 1990年代HABITAT USA製アニマルプリントTシャツの現存販売記録。

※HABITATの創業者、創業年、1990年代当時の正式な企業史、および同社が動物・自然を主題とした理由については、今回確認できた信頼性の高い資料からは特定できませんでした。そのため、本記事では現存する衣服・タグ・公的資料から確認できる範囲と、そこからの解釈を区別して記載しています。

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BON

BON

難しいことはわかりません。

可愛いが信条の町の古着屋店主です。 古着の知識は、無いに等しいです。 お客様から、色々と教えていただいております。 可愛いが大好き。食べるのも大好き。旅行も大好き。アニメ、映画大好き。格闘技も大好き。そんなBONです。よろしくお願いします。

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