古着探偵、黄色いジャケットの謎を追う。―「SVERIGE」と書かれたadidasは、いったい何者なのか?―
黄色いボディに、青の3本線。
胸には「SVERIGE」の文字と、スウェーデン国旗。
そして裾の近くには、adidasのトレフォイルと、見覚えのあるトロフィーのような意匠。
一目見たときから、普通のadidasのトラックジャケットとは少し違う空気をまとっていました。

でも、古着を見ていると、ときどきこういう服に出会います。
「なんとなく分かる。でも、はっきりとは分からない。」
今回の黄色いジャケットは、まさにそんな一着でした。
そこでBONは、この服に残された手掛かりを、一つずつ追いかけてみることにしました。
最初の手掛かりは「SVERIGE」
まず目に飛び込んでくるのが、胸に入った大きな文字。
SVERIGE

「Sverige」は、スウェーデン語で「スウェーデン」を意味します。
その反対側には、青地に黄色い十字のスウェーデン国旗。

黄色と青というジャケットそのものの配色も、スウェーデンを強く連想させます。
ここまでは、それほど難しい謎ではありません。
少なくとも、この一着には「SVERIGE」の文字、スウェーデン国旗、そしてadidasのロゴやタグが確認できます。
問題は、その先でした。
ポケットの下にあった、小さなトロフィー
右側のポケット付近を見てみます。
そこにはadidasのトレフォイル。
そして、その横には金属製の小さなトロフィーを模した意匠が付けられています。

近づいて見ると、
FIFA WORLD CUP
の文字。

サッカー好きなら、この形を見てすぐにピンとくるかもしれません。
FIFAワールドカップのトロフィーを模した意匠です。
そして今回、この金属パーツの裏側も確認してみました。

生地の裏側を見ると、金属パーツを固定している部分が確認できます。
ただし、この取り付け方だけを見て、製造時から付いていたものなのか、それとも後から取り付けられたものなのかまで判断することはできません。
ここでも、見えているものと、推測できることを分けておく必要があります。
内側に縫い付けられた「FIFA」のタグ
さらにジャケットの内側を調べてみると、もう一つ重要な手掛かりが見つかりました。
品質表示タグの近くには、FIFAの文字とサッカーボールの意匠が入ったタグが縫い付けられています。

つまり、このジャケットには、
- adidasのロゴやタグ
- SVERIGE
- スウェーデン国旗
- FIFAタグ
- FIFA WORLD CUPと読めるトロフィー意匠
という、いくつもの要素が同居しています。
ここまで来ると、当然ひとつの可能性が頭に浮かびます。
「これは、サッカーのスウェーデン代表に関係するジャケットなのでは?」
そして、さらに気になるタグが出てきました。
adidasの黒タグ、そして「01/05」
内側には、adidasのトレフォイルとブランド名が入った黒いタグも残されています。

そして品質表示タグ周辺には、もうひとつ、小さな白いタグがあります。
そこには、
01/05
573375
AH5001
と読める数字と英字。

特に気になったのが「01/05」です。
古着のタグに残された数字は、製造時期や商品情報などを探る手掛かりになることがあります。
しかも、このジャケットにはFIFA WORLD CUPの文字が入ったトロフィー意匠があります。
2005年の翌年に開催された男子FIFAワールドカップは、2006年のドイツ大会。
そしてスウェーデン代表も、この大会に出場しました。
ここで話が急につながったように見えます。
「もしかすると、2006年ワールドカップ前後のスウェーデンに関係するadidasなのではないか?」
そう考えたくなります。
でも、古着探偵は、ここで走ってはいけません。
「01/05」という数字が何を意味しているのか、今回確認できた情報だけでは確定できないからです。
「2006年W杯スウェーデン代表公式品」と書いていいのか?
ここからが今回、一番悩んだところです。
調べていくと、このジャケットとよく似た「SVERIGE」表記のadidasトラックジャケットは複数確認できました。
黄色と青の配色。
胸のSVERIGE。
スウェーデン国旗。
トレフォイル。
FIFAやワールドカップを思わせるディテール。
確かに、よく似ています。
しかし、細かく見ていくと、タグやファスナーなどに仕様の違いが見られる個体もありました。
古着では、同じように見えるモデルでも細かな仕様が異なる場合があります。
ただし、その違いが何に由来するものなのかを、今回の調査だけで特定することはできませんでした。
「似た個体が存在する」ことと、
「この個体の素性を証明できる」ことは別です。
ここは、分けて考えなければなりません。
そして、ファスナーで立ち止まった
今回、BONが特に気になったのがメインファスナーでした。
一見すると、青いボディに馴染んだ、ごく普通のファスナー。

ところが確認してみると、引き手の表側にはadidasのロゴが見当たりません。
裏側には、
「R」
のように見える刻印があります。
「これは何だろう?」
ここから、さらに調査が始まりました。
ポケット側のファスナーも確認してみます。

そして、もう一つ。
メインファスナーの一番下、ウエストリブと接する付け根部分をよく見ると、気になる箇所がありました。

黄色い糸によって、手縫いのように縫われた跡が残っています。
現在、ファスナーそのものが完全に外れているわけではありません。
しかし、この部分には明らかに人の手が加えられたような跡があり、何らかの修復または補強が行われたものと考えられます。
なぜ、この場所を縫う必要があったのか。
いつ修復されたのか。
誰が手を加えたのか。
そこまでは分かりません。
そのためBONでは、「ウエスト付近のファスナー付け根に、黄色い糸による手縫いのような修復・補強跡がある」という現物の状態までを記録しておきます。
さらに類似するジャケットの写真を追っていくと、今回のジャケットとよく似た仕様を持つ実在個体も複数確認できました。
だからといって、
「これで全部分かった」
とは言えません。
ファスナーだけを見て、この一着の真贋や素性を決めることはできません。
逆にFIFAタグがあるからといって、この一着を特定の大会や特定の用途に結びつけることもできません。
調べれば調べるほど、分かることと、分からないことの境界線が見えてきました。
「選手支給品」なのか?
こうしたサッカー関連の古着を探していると、
「選手支給品」
「代表公式」
「ワールドカップモデル」
といった言葉を目にすることがあります。
確かに魅力的な言葉です。
もし本当にそうなら、このジャケットの物語は一気に大きくなります。
けれど今回の個体について、BONではそこまでを裏付けられる資料を確認できませんでした。
そのため、
「2006年W杯スウェーデン代表公式品」
とも、
「選手支給品」
とも断定しません。
分からないものは、分からない。
それも古着を扱ううえで、大切な情報だとBONは考えています。
それでも、この一着から分かること
では、何も分からなかったのでしょうか。
いいえ。
むしろ、たくさんのことが残りました。

このジャケットには、実際に「SVERIGE」の表記があります。
スウェーデン国旗があります。
adidasのロゴやタグがあります。
FIFAのタグがあります。
FIFA WORLD CUPと読めるトロフィーの意匠があります。
そして「01/05・573375・AH5001」と読めるタグが残されています。
これらは、実際に現物から確認できるものです。
いま、この服そのものに残っている手掛かりです。
古着を調べるとき、派手な答えを見つけることよりも、こうした小さな事実を一つずつ拾っていくことの方が大切なのかもしれません。
傷も、修復跡も、この服が残してきた手掛かり
もちろん、状態は完璧ではありません。
右腕の後ろ側を中心に、生地の引っかきや小傷のような箇所が複数あります。

adidasの刺繍部分にも、糸のほつれや欠損などの傷みが確認できます。
そして先ほど確認したように、ウエスト付近のファスナー付け根には、黄色い糸による手縫いのような修復・補強跡も残っています。

新品だったころの姿とは違います。
でも古着探偵としてこの服を見ていると、こうした傷や修復跡まで少し違って見えてきます。
誰が着ていたのか。
どこで着られていたのか。
なぜ、この場所を黄色い糸で縫ったのか。
そこまでは分かりません。
分からないからこそ、服が過ごしてきた時間だけが残っています。
古着には、答えが出ないものがある
今回、このジャケットを調べ始めたとき、BONにも一つの期待がありました。
「最後まで調べれば、正体が分かるかもしれない。」
けれど、古着はそんなに都合よく答えを残してくれているとは限りません。
何年、何十年と人の手を渡ってきた服なら、なおさらです。
タグが残っていても分からない。
ロゴがあっても分からない。
似た服を見つけても、最後の一本の線がつながらない。
そして、黄色い糸で縫われた小さな跡のように、理由の分からない痕跡が残っていることもあります。
でも、それでいいのだと思います。
分からないものを、無理に物語にしてしまわないこと。
そして、分かったところまでを、きちんと残しておくこと。
それも古着屋の仕事の一つではないでしょうか。
ぼんちゃん先生と読み解く、一枚の服の向こう側。
Q.
「SVERIGE」って何?
ぼんちゃん先生
スウェーデン語で「スウェーデン」という意味です。英語の「SWEDEN」にあたります。このジャケットでは国旗や黄色×青の配色とともに、スウェーデンを示す重要な手掛かりになっています。
Q.
FIFAタグがあるなら、ワールドカップ公式品じゃないの?
ぼんちゃん先生
FIFAとの関連を示す重要なディテールではありますが、タグだけから特定大会の「代表公式品」や「選手支給品」とまで断定することはできません。BONでは、現物から確認できる事実と推測を分けて紹介しています。
Q.
「01/05」は2005年製という意味?
ぼんちゃん先生
製造時期などに関係する表記である可能性は考えられますが、今回確認できた情報だけでは、その意味を確定できません。そのためBONでは「01/05という表記が確認できる」ところまでを事実として扱います。
Q.
メインファスナーの「R」のような刻印は何?
ぼんちゃん先生
今回の調査では、この刻印の意味やメーカーまでは特定できませんでした。ファスナーの仕様だけを根拠に、このジャケットの真贋や製造背景を判断することもしていません。現物に「R」のように見える刻印がある、という事実を記録しています。
Q.
ウエスト付近の黄色い糸は何?
ぼんちゃん先生
メインファスナー下部のウエスト付近には、黄色い糸による手縫いのような補修跡が確認できます。何のために、いつ、誰が補修したのかまでは分かりません。現在残っている状態を、そのまま記録しています。
Q.
結局、このジャケットの正体は?
ぼんちゃん先生
「SVERIGE」、スウェーデン国旗、adidas、FIFAタグ、ワールドカップトロフィーの意匠などを備えた、スウェーデンとサッカーとの関連を感じさせるadidasのトラックジャケットです。ただし、特定大会の公式ウェアや選手支給品であることまでは、現時点では確認できていません。
ぼんちゃん先生と読み解く、一枚の服の向こう側。
ぼんちゃん先生のまとめ。服に残された手掛かりを整理すると、分かったことと、まだ分からないことが見えてきます。
古着探偵の調査メモ
今回の調査で分かったこと。
そして、最後まで分からなかったこと。
その両方を、BON JOURNALには残しておこうと思います。
もしかすると数年後、この「573375」や「AH5001」という番号から、新しい資料が見つかるかもしれません。
同じジャケットを持っている人が現れるかもしれません。
当時のカタログが見つかるかもしれません。
そのとき、この調査の続きをすればいい。

古着の物語は、商品を販売した瞬間に終わるとは限りません。
一着の服から始まった小さな謎を、記録として残していく。
それもBON JOURNALでやってみたかったことの一つです。
さて。
この黄色いジャケット。
あなたには、何者に見えるでしょうか。
古着探偵の調査は、ひとまずここまで。
でも、この事件――
まだ完全には解決していません。
この物語のきっかけになった一着は、
FURUGI BON ONLINE STOREでご覧いただけます。
古着探偵 Vol.1
服に残された手掛かりを、ひとつずつ。
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