パン生地の彼がダンベルを持った日。Pillsbury Doughboy(ピルズベリー・ドゥボーイ) “GYM” Tシャツとアメリカ広告文化
白い体に、青い瞳。
コック帽をかぶった、小さな男の子。
アメリカで長く親しまれてきたPillsbury Doughboy(ピルズベリー・ドゥボーイ)です。
でも、今回出会った彼は、いつものキッチンにはいません。
両手には、ダンベル。
頭上には大きく、「DOUGHBOY’S GYM」。
パン生地のキャラクターが、なぜ筋トレをしているのでしょう。

今回は一枚の古いTシャツから、Pillsbury Doughboyと、アメリカの広告キャラクター文化をたどってみます。
Pillsbury Doughboyとは?
Pillsbury Doughboyは、アメリカの食品ブランド「Pillsbury(ピルズベリー)」を代表する広告キャラクターです。
正式な名前は、「Poppin’ Fresh(ポッピン・フレッシュ)」。
Pillsbury公式の歴史によると、このキャラクターのアイデアが生まれたのは1965年3月18日。
当時、シカゴの広告会社Leo BurnettでPillsburyを担当していたコピーライター、Rudy Perzが考案したとされています。
冷蔵生地の缶から、小さなキャラクターが飛び出してくる。
そんなアイデアから生まれたのが、Poppin’ Freshでした。
そして1965年11月7日、Doughboyが登場する最初のテレビCMが放送されます。
アメリカの日常に入り込んだ、小さな広告キャラクター
Doughboyは、単に商品の横に描かれたマスコットではありませんでした。
Pillsbury公式によれば、登場からわずか3年後には、消費者の認知率が87%に達したとされています。
かつては毎週200通ものファンレターが届き、サイン入り写真を求める依頼が1,500件に達したこともあったそうです。
広告のために生まれたキャラクターが、いつの間にか人々の暮らしの中に入り込んでいく。
Doughboyは、そんなアメリカの広告文化を象徴する存在のひとつになっていきました。
ところが、このDoughboyはダンベルを持っている
今回のTシャツで、まず目に飛び込んでくるのがフロントのグラフィックです。
大きく描かれた「DOUGHBOY’S GYM」。
その下ではDoughboyが、左右の手にダンベルを持っています。
これが、なんともおかしい。
そもそもDoughboyは、「Dough=生地」をモチーフにした、白くて柔らかなキャラクターです。
そんな彼が、体を鍛える「GYM」にいる。
柔らかなパン生地と、筋肉。
キッチンと、トレーニングジム。
まったく反対に見える二つの世界を組み合わせたところに、このグラフィックの面白さがあります。
「©1996 THE PILLSBURY COMPANY」という手掛かり
プリントをよく見ると、下部に「©1996 THE PILLSBURY COMPANY」という表記を確認できます。
ここは、このTシャツを考えるうえで大切な手掛かりです。
ただし、ひとつ注意しなければならないことがあります。
「©1996」と書かれているからといって、このTシャツそのものが1996年に製造されたと断定することはできません。
コピーライトの年は、デザインや権利に関係する年を示すもので、Tシャツの製造年と必ず一致するわけではないからです。
そのためBON JOURNALでは、この一着を「1996年製」ではなく「©1996表記」として記録します。
もうひとつの手掛かり、TENNESSEE RIVER GOLD
首元に付いているのは、ブルーの「TENNESSEE RIVER GOLD」タグ。
さらに品質表示タグを確認すると、100% COTTON / MADE IN USAの表記があります。
Tennessee Riverのタグについて調べた資料では、「Gold」ラインは1989年頃に登場し、1990年代にも使用されていたとされています。
また、タグ研究資料では、1994年頃からGoldタグにリバーボートを用いたタイプが見られ、1990年代末頃まで確認されています。
今回のボディの特徴は、プリントに残された「©1996」という表記とも時代的に矛盾しません。
ただし、Tennessee River自身が公開した公式のタグ年代資料が確認できるわけではありません。
そのため、タグだけから製造年を一点に絞ることも避けたいと思います。
古くなったプリントも、この一枚の表情
Doughboyの白い部分を近くで見ると、プリントには細かなクラックや擦れが見られます。
新品のTシャツなら、それは「劣化」と呼ばれるものかもしれません。
でも、古着では少し見え方が変わります。
何度着られ、何度洗われ、どんな場所を通ってきたのか。
もちろん、その履歴を正確に知ることはできません。
だからこそ、BONでは分からない過去を作り話で埋めるのではなく、今この服に残っているものを見たいと思っています。
少し割れたプリントも、柔らかくなったグレーの生地も、この一枚が時間を通ってきたことを感じさせる部分です。
キャラクターTシャツは、小さな広告資料でもある
古いキャラクターTシャツを見ていると、ときどき不思議に思います。
なぜ、何十年も前の企業キャラクターが描かれたTシャツを、今の私たちは「格好いい」「面白い」と感じるのでしょう。
おそらく、そこには服だけではないものが残っているからです。
当時の広告。
当時の色。
当時のユーモア。
そして、その時代の人たちが親しんでいたキャラクター。
Tシャツという小さな布の上に、アメリカの日常文化の一部が残っています。
分からないことも、そのまま残しておく
今回調べた範囲では、「DOUGHBOY’S GYM」というグラフィックが、どのような企画やキャンペーンのために制作されたのかを示す確かな一次資料までは確認できませんでした。
販促用だったのか。
一般販売されたものなのか。
あるいは別の目的があったのか。
そこを想像することはできます。
でも、想像を事実にはしない。
分からないことを「分からない」と残しておくことも、古着を記録するうえでは大切だとBONは考えています。
「©1996」と書いてあるなら、このTシャツは1996年製なの?
ぼんちゃん先生
そこは注意が必要だよ。「©1996」は、プリントに関係するコピーライト表記なんだ。
コピーライトの年とTシャツそのものが作られた年は、必ずしも同じではないんだよ。だから今回は「1996年製」と断定せず、「©1996表記」として紹介するのが正確なんだ。
Pillsbury Doughboyの本当の名前は?
ぼんちゃん先生
本名は「Poppin’ Fresh(ポッピン・フレッシュ)」だよ。
1965年にPillsburyの広告キャラクターとして誕生したんだ。白い体にコック帽、首元のスカーフという姿で、長いあいだアメリカで親しまれてきたキャラクターなんだよ。
TENNESSEE RIVER GOLDのタグなら、1990年代と断定できるの?
ぼんちゃん先生
今回確認したタグ研究資料では、TENNESSEE RIVER GOLDは1990年代にも使われていたことが確認できるよ。
ただし、メーカー自身が公開した完全な公式年表ではないんだ。だからタグだけを見て「○○年製」と一点まで決めるのではなく、コピーライトや縫製、素材など、いくつかの情報を合わせて考えるのが大切なんだよ。
プリントのひび割れは、ダメージなの?
ぼんちゃん先生
状態として見れば、経年によるプリントのクラックや擦れだね。
でも古着では、それも一着ずつ違う表情になるんだ。ただし「味だから大丈夫」と隠してはいけないよ。状態をきちんと見せたうえで、それを含めて好きかどうか選んでもらうことが大切なんだ。
この一枚から見えてきたもの
Pillsbury Doughboyは1965年に生まれました。
そして今回のTシャツには、「©1996 THE PILLSBURY COMPANY」という文字が残っています。
首元にはTENNESSEE RIVER GOLD。
品質表示には100% COTTON、そしてMADE IN USA。
そこまでは、服に残された事実です。
その先にある、このTシャツを誰が買い、誰が着て、どうして日本までやって来たのかという物語は分かりません。
でも、それでいいのかもしれません。
分かっていることを調べる。
分からないことは、分からないまま残す。
そして一枚の服から、その向こう側にあった文化を少しだけ覗いてみる。
ダンベルを持った、小さなパン生地の男の子。
最初はただ面白いと思ったグラフィックにも、調べてみると60年以上続くアメリカの広告キャラクター文化へつながる入口がありました。
古着を見る面白さは、こんなところにもあるのだと思います。
この一着を、もう少し詳しく。
今回紹介したPillsbury Doughboy “Doughboy’s Gym” Tシャツは、 Furugi Bonのオンラインストアで実物の写真やサイズ、 コンディションをご覧いただけます。
記事では伝えきれないプリントの表情や生地の状態も、 写真とともにご確認ください。
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