ぬくもりのある服には、物語がある。

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服と人の物語

HERFって何? Dickiesの一枚から辿る、6,000人の葉巻祭り。

HERFって何? Dickiesの一枚から辿る、6,000人の葉巻祭り。BON JOURNAL記事OGP画像

一見すると、ごく普通のグレーのDickies。

半袖。両胸のポケット。
65%ポリエステル、35%コットンのワークシャツ。

けれど、その左胸には見慣れない文字が刺繍されていました。

CIGARfest 2017。

そして、その下にはもうひとつ。

AMERICA’S MEGA-HERF。

HERF?

ブランド名でもなければ、地名でもない。

この小さな言葉を追いかけてみると、一枚のDickiesの向こう側に、
約6,000人もの人々が集まった巨大な葉巻の祭りが見えてきました。

Dickies CIGARfest 2017 半袖ワークシャツ 正面
グレーのDickiesに残された「CIGARfest 2017」の刺繍。すべては、この一枚から始まった。

胸に残された「CIGARfest 2017」

左胸の刺繍を近くで見てみます。

上部には「CIGARS INTERNATIONAL」

中央には大きく「CIGARfest 2017」

そして下部には、
「AMERICA’S MEGA-HERF」とあります。

CIGARfest 2017 America's Mega-Herf 胸刺繍

「CIGARS INTERNATIONAL」「CIGARfest 2017」「AMERICA’S MEGA-HERF」と刺繍されている。

Cigars Internationalは、アメリカの葉巻小売業者。

その同社が開催していた大規模イベントが、
CIGARfestでした。

つまり、この刺繍は単なる葉巻をモチーフにしたファッションデザインではありません。

2017年に実際に開催されたイベントへとつながる文字なのです。

2017年、6,000人が小さな町へ集まった

2017年のCIGARfestは、5月4日から7日までの4日間、
アメリカ・ペンシルベニア州のLake Harmony周辺で開催されました。

当時の記録では、その規模は約6,000人

6,000人の葉巻愛好家たちが、一つのイベントを目指して集まったのです。

メインイベントは5月5日と6日。
会場となったのはLake HarmonyのSplit Rock Resortでした。

しかし、CIGARfestは単に会場へ入り、
葉巻を買って帰るだけの催しではありませんでした。

プレパーティー、朝食、ディナー、ゴルフイベント、
Cuban Pig Roast。

さらにAlec Bradley、Rocky Patel、Perdomo、Oliva、CAOなど、
葉巻メーカーに関連したさまざまなイベントも組み込まれていました。

食べる。
飲む。
話す。
遊ぶ。
そして、葉巻を楽しむ。

「葉巻の展示会」という言葉だけでは、
少し足りない気がします。

これはむしろ、
葉巻を真ん中に置いた巨大な祭りだったのでしょう。

ところで、「HERF」って何?

ここで、最初の疑問に戻ります。

胸に刺繍された、
AMERICA’S MEGA-HERF。

このHERF(ハーフ/ハーフと表記されることがある)という言葉は、
現在の葉巻文化では、葉巻好きの人々が集まり、一緒に葉巻を楽しむ集まりを表す言葉として使われています。

一人で一本の葉巻を吸うことではなく、
仲間が集まり、同じ場所で葉巻を囲み、時間を共有する。

そんな文化まで含んだ言葉です。

だからCIGARfestが
「America’s Mega-Herf」と呼ばれていたことにも納得できます。

普通のHERFを、とてつもなく大きくしたもの。

6,000人規模で行われる巨大なHERF。

まさに「Mega-Herf」だったわけです。

HERFを辿ると、90年代のインターネットへ

では、「HERF」という少し変わった言葉は、どこから来たのでしょう。

これについては、はっきりとした語源を断定することはできません。

ただ、調べていくと1990年代のオンライン葉巻コミュニティで
「herf」という言葉が使われ、広まっていったとされる記録に行き着きます。

当時は、今のSNSがまだ存在しない時代。

インターネット上には「Usenet」と呼ばれる、
世界中の人々がテーマごとに会話するニュースグループがありました。

葉巻愛好家たちが集まった場所のひとつが、
alt.smokers.cigars

1996年には、そのコミュニティ内ですでに「herf」という言葉が使われていた記録があります。

ただし、それがこの言葉の「最初の誕生」であったとまでは確認できません。

言葉というものは、ときどき誰かが発明した瞬間より先に、
人から人へと渡り歩いているものです。

だからBON JOURNALでは、


「HERFは1990年代のオンライン葉巻コミュニティなどを通じて広まったとされる」

というところまでにしておきます。

でも、それだけでも十分面白い。

2017年のDickiesに刺繍された一つの単語を追いかけたら、
1990年代のインターネット文化まで辿り着いてしまったのです。

Dickiesワークシャツ 胸ポケットとCIGARfest 2017刺繍

ワークシャツらしい両胸ポケット。その上に、2017年のイベントの記憶が残されている。

葉巻には、なぜ「集まる文化」があるのだろう

ここからは、少しだけ想像してみます。

一本の葉巻を楽しむには、それなりの時間が必要です。

火をつけて、数分で終わるものではありません。

座る。
煙をくゆらせる。
話す。
また吸う。

そこには最初から、
「時間を一緒に過ごす余白」があります。

だから葉巻は、単なる嗜好品というだけでなく、
人と人が集まる理由にもなっていったのでしょう。

CIGARfestの6,000人という規模は、
その文化を巨大化させた光景だったのかもしれません。

そして、なぜDickiesなのか

ここで、再び服へ戻りましょう。

Dickies CIGARfest 2017 ワークシャツ ブランドタグ 2X LARGE

首元にはDickiesのタグ。表記は2X LARGE。65% POLYESTER / 35% COTTON、MADE IN HONDURAS。

首元に残る赤いタグにはDickiesのロゴ。

サイズ表記は2X LARGE

素材は65% POLYESTER / 35% COTTON
生産国はMADE IN HONDURASと確認できます。

ワークウェアらしい実用的な生地。
両胸にはボタン留めのポケット。

そして胸にはCIGARfest 2017。

葉巻イベントとDickies。

不思議な組み合わせに見えますが、
アメリカのイベントウェアとして見ると、
この飾らないワークシャツには妙な説得力があります。

Dickies CIGARfest 2017 半袖ワークシャツ 斜めから見た全体

ファッションのためだけに作られた服とは少し違う佇まい。それが、この一枚の面白さでもある。

これは「公式スタッフシャツ」なのか?

ここで気になることがあります。

では、このDickiesはいったい誰が着ていたのでしょう。

CIGARfestのスタッフ?

関係者?

出展者?

それとも参加者へ販売・提供されたもの?

今回の調査では、
この個体が誰に、どのような目的で渡された服だったのかまでは確認できませんでした。

したがってBONでは、
「CIGARfest 2017公式スタッフユニフォーム」
といった断定はしません。

分かっているのは、
DickiesのワークシャツにCigars International、
CIGARfest 2017、America’s Mega-Herfの刺繍が存在しているということ。

そして、この服と同じ時代に、
実際に約6,000人が集まるCIGARfest 2017が開催されていたということです。

古着を調べていると、
「分からない」という答えに辿り着くことがあります。

でも、それは失敗ではありません。

分かったことと、分からないことの境界線を残すことも、
古い服と向き合ううえでは大切なのだと思います。

もうひとつ残された、袖の謎

Dickies CIGARfest 2017 袖の刺繍

袖にも別の刺繍が残る。今回の調査では、この図柄の詳細までは特定できなかった。

このシャツには、もうひとつ気になるものがあります。

袖に入った円形の刺繍です。

胸のコンパスを使ったCIGARfest 2017ロゴとは異なるデザイン。

2017年のCIGARfestでは、
「CIGARfest OR BUST!」など、旅やロードトリップを思わせる意匠も展開されていました。

ただし今回確認できた資料だけでは、
この袖の刺繍が何を表したものなのか、
そこまで特定することはできませんでした。

だから、この刺繍については答えを作らないことにします。

まだ分からない。

この一枚には、もう少し先へ続く物語が残っています。

Dickies CIGARfest 2017 ワークシャツ 内側

シャツを開いて内側を見る。イベント名を知らなければ、ごく普通のワークシャツに見える。

服だけが、2017年からやってきた

2017年5月。

ペンシルベニアの小さな町へ、
約6,000人の葉巻好きが集まりました。

食事をして、話して、笑って、
それぞれお気に入りの葉巻に火をつける。

今となっては、その場にどんな匂いがして、
どんな音楽が流れ、
このDickiesを着た人物が誰と話していたのかは分かりません。

でも、服は残りました。

CIGARfest 2017。

America’s Mega-Herf。

その文字だけを胸に残して。

そして約9年後、
遠く離れた日本で、一枚の古着としてもう一度ハンガーに掛けられています。

もし、この刺繍がなければ、
私たちはこの服を「グレーのDickies」としか見なかったかもしれません。

けれど、たった数文字を調べることで、
その向こう側から6,000人の人々と、葉巻文化と、
90年代のインターネットまで現れました。

これだから、古着は面白いのです。

Dickies CIGARfest 2017 半袖ワークシャツ 背面

背中には大きな装飾がない。一見すれば、ただのグレーのDickies。それでも、この服には確かに物語が残っている。

ぼんちゃん先生と読み解く、一枚の服の向こう側。

Q.
HERFって葉巻の種類なの?
猫耳フードのぼんちゃん先生
ぼんちゃん先生

いいえ。HERFは葉巻そのものの種類ではありません。現在の葉巻文化では、葉巻好きの人たちが集まり、一緒に葉巻を楽しむ集まりや、そうした交流を指す言葉として使われています。CIGARfestが「America’s Mega-Herf」と呼ばれていたのも、何千人もの葉巻愛好家が集まる巨大な“HERF”だったと考えると分かりやすいです。

Q.
CIGARfest 2017には、本当に6,000人も集まったの?

ぼんちゃん先生

当時のCigar Journalでは、2017年5月4日から7日に開催されたCIGARfestについて、6,000人の葉巻愛好家が集まる4日間のイベントとして紹介されています。BON JOURNALでは、資料の内容を踏まえて本文中では「約6,000人」と表現しています。

Q.
HERFという言葉は、誰が作ったの?

ぼんちゃん先生

はっきりとは分かっていません。1990年代のオンライン葉巻コミュニティなどで「herf」という言葉が使われ、広まっていったとされる記録がありますが、「この人物が、この年に作った言葉」と確定できる資料までは確認できませんでした。そのためBON JOURNALでは、語源を断定せず「1990年代のオンライン葉巻コミュニティなどを通じて広まったとされる」としています。

Q.
このDickiesはCIGARfestの公式スタッフシャツなの?

ぼんちゃん先生

現時点では、そこまでは断定できません。現物には「CIGARS INTERNATIONAL」「CIGARfest 2017」「AMERICA’S MEGA-HERF」の刺繍が確認できます。また、CIGARfestに関連したDickiesシャツがほかにも存在した形跡はありますが、この個体がスタッフ用だったのか、関係者用だったのか、販売・配布されたものなのかまでは確認できていません。BONでは、確認できない部分を「公式スタッフシャツ」と断定せず販売・紹介します。

Q.
袖にある丸い刺繍は何のマークなの?

ぼんちゃん先生

今回の調査では、この袖刺繍が具体的に何を表したものなのかまでは特定できませんでした。2017年のCIGARfestでは「CIGARfest OR BUST!」など、旅やロードトリップを思わせるビジュアルも使われていましたが、この袖刺繍と同一の意匠であることを確認できる資料は見つかっていません。分からないものを無理に答えにせず、この一枚に残された“まだ解けていない謎”として残しています。

CIGARfest 2017とHERFについて解説するぼんちゃん先生のまとめ画像
HERFとは何か、CIGARfest 2017にはどれほどの人が集まったのか。Dickiesの一枚から見えてきた内容を、ぼんちゃん先生がまとめます。

一枚の服の向こう側へ。

古着には、ときどき知らない言葉が残されています。

有名なブランド名でもない。
誰もが知る人物の名前でもない。

今回残されていたのは、

CIGARfest 2017。

そして、

AMERICA’S MEGA-HERF。

「HERFって何?」

たったそれだけの疑問から、
6,000人の祭りへ。

さらに葉巻文化へ。

そして90年代のインターネットへ。

最後に残ったのは、ひとつの答えではありませんでした。


このDickiesを着て、2017年のCIGARfestにいたのは、
いったい誰だったのだろう。

それは、たぶんもう分かりません。

でも、その分からなさまで含めて、
古着は過去を残しています。

値札だけでは見えないものを、もう少し先まで追いかけてみる。


一枚の服の向こう側へ。
BON JOURNAL


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BON

BON

難しいことはわかりません。

可愛いが信条の町の古着屋店主です。 古着の知識は、無いに等しいです。 お客様から、色々と教えていただいております。 可愛いが大好き。食べるのも大好き。旅行も大好き。アニメ、映画大好き。格闘技も大好き。そんなBONです。よろしくお願いします。

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